拡大熱抵抗を考慮した半導体パッケージの伝熱解析

熱設計

OpenModelica の入門書を書かれている西先生の論文を参考に、拡大熱抵抗を考慮した半導体パッケージの伝熱解析を行う Excel プログラムを作ってみました。拡大熱抵抗の算出方法についてはこちらの記事を参照してください。

半導体パッケージの解析モデル

論文の第3章の下図のような半導体パッケージの伝熱解析を拡大熱抵抗を考慮した熱回路法で解きます。

計算フロー概要

方針:各部材毎に、上流端には熱流量比を下流端には熱伝達係数を設定した境界値問題として温度場を求め、各部材間界面での拡大熱抵抗(面内温度分布)が一致するように熱伝達係数を修正して繰り返し計算を行う

  1. Die-FCB の界面に熱源を設置、熱源より上方へ向かう伝熱経路(1. Die → 2. TIM → 3. HS)と下方に向かう伝熱経路(1. FCB → 2. Pkg → 3. SB → 4. Brd)分けて解析
  2. 最上流の部材 1 の上流端である熱源面の 1/4 を高発熱領域、残りを低発熱領域として分割し、各分割領域ごとに熱流量比を設定(ここでは全熱流量の半分ずつ)
  3. 部材 1 以外の残りの各部材の上流端についても、熱流量比を設定するための領域を適宜分割
  4. 各部材の上流端・下流端に拡大熱抵抗と熱流量比を計算するためのパッチ領域を設定
  5. 最下流部材(上方経路では部材 3、下方経路では部材 4)の下流端に熱伝達係数を設定
  6. 最下流部材を除く各部材(上方経路では部材 1-2、下方経路では部材 1-3)の下流端には見かけ上の熱伝達係数の初期値を設定
  7. 部材 k(初期値 1)の温度場の解析解から上流端・下流端の拡大熱抵抗を計算
  8. 下流端の拡大熱抵抗値から下流端の分割領域ごとの熱流量比を計算し(下記参照)、それを隣接する部材 k+1 の上流端の境界条件として設定
  9. k=k+1 として、ステップ 7-8 の計算を最下流部材 k=N(上方経路では N=3、下方経路では N=4)まで繰り返す
  10. 隣接する部材間界面において、下流側部材 k+1 の上流端の拡大熱抵抗値を用いて上流側部材 k の下流端の熱伝達係数を更新(下記参照)
  11. 上流側部材 k の下流端と下流側部材 k+1 の上流端のそれぞれにおいて計算された拡大熱抵抗値を比較して両者の差分が基準値以下に収束するまでステップ 7 に戻って計算を繰り返し、基準値以下に収束したら計算を終了(下記参照)

各部材の下流端の熱流量比の算出

温度 \(T\) を周囲温度 \(T_f\) を差し引いた \(\theta=T-T_f\) と置くと、部材の下流端において、面積 \(A_p\) の高発熱領域パッチを流れる熱流量は、

\[Q_{p,c}=hA_p \overline{\theta_p} \tag{1}\]

また部材の断面積全体を流れる熱流量は、

\[Q_{tot}=hA_{tot}\overline{\theta_{1D}} \tag{2}\]

また、部材の下流端における拡大熱抵抗は以下で定義されます。

\[R_{s,c}=\frac{\overline{\theta_p}-\overline{\theta_{1D}}}{Q_{tot}} \tag{3}\]

式(1)、(2)より、下流端の高発熱領域を流れる熱流量比 \(q_{r,c}\) は、

\[q_{r,c}=\frac{Q_{p,c}}{Q_{tot}}=\frac{A_p \overline{\theta_p}}{A_{tot}\overline{\theta_{1D}}}=\frac{A_p(\overline{\theta_p}-\overline{\theta_{1D}})}{A_{tot}\overline{\theta_{1D}}} +\frac{A_p}{A_{tot}}\tag{4}\]

式(2)、(3)より、

\[hR_{s,c}=\frac{\overline{\theta_p}-\overline{\theta_{1D}}}{A_{tot}\overline{\theta_{1D}}} \tag{5}\]

式(5)を式(4)に代入すると、

\[q_{r,c}=hA_pR_{s,c}+\frac{A_p}{A_{tot}}\tag{6}\]

となり、\(q_{r,c}\) は \(h\) と \(R_{s,c}\) に依存し、\(h \to 0\) ではパッチの面積比となることがわかります。

熱伝達係数 \(h\) の更新方法

上の式(6)を変形すると、部材 k の \(h\) は、

\[h_k^{old}=\frac{q_{r,c}^k-A_p/A_{tot}}{A_pR_{s,c}^k} \tag{7}\]

ここで定常状態では、部材 k の下流端における \(R_{s,c}^k\) は隣接する部材 k+1 の上流端における拡大熱抵抗 \(R_{s,h}^{k+1}\) に一致するので次式で \(h\) を更新します。

\[h_k^{new}=\frac{q_{r,c}^k-A_p/A_{tot}}{A_pR_{s,h}^{k+1}} \tag{8}\]

これにより、熱伝達境界条件が固定されている最下流部材の温度場を下流側から上流側に向かって反映していくことになります。元論文には具体的な \(h\) の更新方法に関する記述はなく、また、この方法以外の更新方法も考えられますが、とりあえずこの方法で収束させることができました。

部材界面での拡大熱抵抗(面内温度分布)の比較

定常状態では部材 k の下流端で計算される \(R_{s,c}^k\) と隣接する部材 k+1 の上流端で計算される \(R_{s,h}^{k+1}\) が一致します。 隣接する2つの部材の断面積が等しい場合、部材 k と部材 k+1 とも共通のパッチに対する拡大熱抵抗を計算します。
一方、隣接する2つの部材の断面積が異なる場合、部材 k+1 の温度場から部材 k と接する界面の温度分布を計算するためには、下図の ”Patch 1″ および ”Patch 2″ について拡大熱抵抗を計算しそれらの差分をとって求める必要があります。
ところで、上流端 (\(z=0\) )の拡大熱抵抗はこちらの記事の式(17)、(18)で計算しますが、下流端(\(z=t_k\) )の場合は式(18)の代わりに以下で計算します。

\begin{eqnarray}
\overline{\Delta \theta_{s,i}}=2\displaystyle \sum_{m=1}A_m^i\frac{\cos(\lambda_m X_p)\sin(\frac{1}{2}\lambda_m c_p)}{\lambda_m c_p}\\[8pt]
\times[\cosh(\lambda_m t_k)-\phi(\lambda_m)\sinh(\lambda_m t_k)]\\[8pt]
+2\displaystyle \sum_{n=1}A_n^i\frac{\cos(\delta_n Y_p)\sin(\frac{1}{2}\delta_n d_p)}{\delta_n d_p}\\[8pt]
\times[\cosh(\delta_n t_k)-\phi(\delta_n)\sinh(\delta_n t_k)]\\[8pt]
+4\displaystyle \sum_{m=1}\displaystyle \sum_{n=1}A_{mn}^i\frac{\cos(\lambda_m X_p)\sin(\frac{1}{2}\lambda_m c_p)}{\lambda_m c_p}\\[8pt]
\times \frac{\cos(\delta_n Y_p)\sin(\frac{1}{2}\delta_n d_p)}{\delta_n d_p}\\[8pt]
\times [\cosh(\beta_{mn} t_k)-\phi(\beta_{mn})\sinh(\beta_{mn} t_k)]
\tag{18’}
\end{eqnarray}

Excel サンプルプログラムのダウンロード

Excel サンプルプログラムの説明

上方伝熱経路と下方伝熱経路について、それぞれフーリエ級数の個数 50 個と 100 個に設定した計算結果を個別のシートにまとめてあります。
入力項目は以下の通りです。

  • C3 セル:計算繰り返し数
  • C4 セル:フーリエ級数の個数
  • C5 セル:構成部材の数
  • C6 セル:[境界条件] 最上流部材の熱流量比
  • C7 セル:[境界条件] 最下流部材の熱伝達係数
  • 11 行目:各部材の見かけ上の熱伝達係数の初期値(最下流の部材を除く)
  • 18-22 行目:各部材の寸法・熱伝導率(直交異方性考慮可能)
  • 25 行目以降:熱源の個数・寸法、拡大熱抵抗計算用のパッチの個数・寸法

各パラメータ入力後、ボタン “Calculate Rs Matching” を押すと計算プログラムが開始します。
はじめは計算繰り返し数を 1 に設定し、プログラムの動作確認をします。熱源やパッチの寸法の間違いに注意してください。動作確認後、繰り返し数を増やして計算します。11 行目、各部材入力項目セル群の間にあるセルに、隣接する部材で計算した拡大熱抵抗値の差分が表示されるので、この値が小さくなるまで計算し、目視で収束を判断します。

シート “Summary” に求められた拡大熱抵抗を使用して半導体パッケージの熱回路を解いて各部材界面の温度を求めています。計算結果はフーリエ級数の個数が 50 個の場合と 100 個の場合で 0.01 ℃ のオーダーまで一致することを確認しました。また、ジャンクション温度の予測値(論文とは異なり、点ではなく高発熱領域の平均値)は、24.16 ℃ となり、論文中のジャンクション点の値 24.34 ℃に近い結果となりました。

参考

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