こちらの記事を元に、TEC デバイス(ペルチェモジュール)のパラメータ(ゼーベック係数、電気抵抗 、熱コンダクタンス)をベンダーのデータシートの仕様(最大電流、最大電圧、最大温度差、最大吸熱量)を用いて算出するエクセルシートを作成しました。
- 記号
- TEC デバイスの理論式
- \( I_{\rm max}, \Delta T_{\rm max}, V_{\rm max}, Q_{c \rm max}\) の導出
- 性能指数 \( Z \) の算出
- \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法 I
- \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法 II
- 2つの \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法の違いについて
- 応用:\( \rm COP\), \(R_{\rm heatsink} \) の算出
- TEC デバイスパラメータ算出 Excel シートのダウンロード
- TEC デバイスパラメータ算出 Excel シートの説明
- 参考
記号
- \( T_h \): 高温側(Hot Side, 放熱面)温度 \( \rm [K] \)
- \( T_c \): 低温側(Cold Side, 吸熱面)温度 \( \rm [K] \)
- \( \Delta T \): 高温側と低温側の温度差 \( T_h-T_c \) \( \rm [K] \)
- \( T_a \): 周囲温度 \( \rm [K] \)
- \( I \): 電流 \( \rm [A] \)
- \( V \): 電圧 \( \rm [V] \)
- \( Q_c \): 吸熱量 \( \rm [W] \)
- \( Q_p \): 投入電力 \( VI \) \( \rm [W] \)
- \( \rm COP \): 成績係数(Coefficient of Performance) \( Q_c/Q_p \)
- \( s \): ペルチェ素子のゼーベック係数 \( \rm [V/K] \)
- \( \rho \): ペルチェ素子の電気抵抗率 \( \rm [\Omega m] \)
- \( k \): ペルチェ素子の熱伝導率 \( \rm [W/(mK)] \)
- \( Z \): 性能指数(Figure of Merit) \(s^2/(\rho k) \) \( \rm [1/K] \)
- \( G \): ペルチェ素子の (面積/長さ) 比 \( \rm [m] \)
- \(N\): TEC デバイス内のペルチェ素子数
- \( S_{\rm M} \): TEC デバイスのゼーベック係数 \( 2sN \) \( \rm [V/K] \)
- \( R_{\rm M} \): TEC デバイスの電気抵抗 \( 2\rho N/G \) \( \rm [\Omega] \)
- \( K_{\rm M} \): TEC デバイスの熱コンダクタンス \( 2kNG \) \( \rm [W/K] \)
- \( I_{\rm max} \): \( Q_c=0 \), \( \Delta T=\Delta T_{\rm max} \) での電流 \( \rm [A] \)
- \( V_{\rm max} \): \( Q_c=0 \), \( \Delta T=\Delta T_{\rm max} \) での電圧 \( \rm [V] \)
- \( \Delta T_{\rm max} \): \( Q_c=0 \), \( I=I_{\rm max} \) での最大温度差 \( \Delta T \) \( \rm [K] \)
- \( Q_{c \rm max} \): \( \Delta T \), \( I=I_{\rm max} \) での \( Q_c \) \( \rm [W] \)
- \( R_{\rm heatsink} \): 必要となるヒートシンクの熱抵抗 \( (T_h-T_a)/(Q_c+Q_p) \) \( \rm [K/W] \)
TEC デバイスの理論式
\[ Q_c=S_M T_c I-\frac{1}{2}I^2R_M-K_M\Delta T \tag{1} \]
\[ V=S_M\Delta T+IR_M \tag{2} \]
\[ Z=\frac{S_M^2}{R_M K_M} \tag{3} \]
\( I_{\rm max}, \Delta T_{\rm max}, V_{\rm max}, Q_{c \rm max}\) の導出
\( Q_c=0 \) では、式 (1) より \( \Delta T \) は \( I \) の2次式となります。
\[ \Delta T=\frac{1}{K_M}\left(S_MT_cI-\frac{1}{2}I^2R_M\right) \tag{4} \]
これを \( I \) で微分して 0 とおくと、
\[ \frac{d \Delta T}{d I}=\frac{1}{K_M}(S_M T_c-I R_M)=0 \tag{5} \]
これより、
\[ I_{\rm max}=\frac{S_M}{R_M}T_c=\frac{S_M}{R_M}(T_h-\Delta T_{\rm max}) \tag{6} \]
式 (6) を式 (4) に代入すると、
\[ \Delta T_{\rm max}=\frac{1}{2}Z T_c^2=\frac{1}{2}Z (T_h-\Delta T_{\rm max})^2 \tag{7} \]
このとき式 (2) より、
\[ V_{\rm max}=S_M\Delta T_{\rm max}+I_{\rm max} R_M \tag{8} \]
一方、\( Q_{c \rm max} \) は \( \Delta T=0 \) (すなわち、\( T_c=T_h \))での吸熱量であり、式 (1) より、
\[ Q_{c \rm max}=S_M T_c I_{\rm max}-\frac{1}{2}I_{\rm max}^2R_M T \tag{9} \]
これら \( I_{\rm max}, \Delta T_{\rm max}, V_{\rm max}, Q_{c \rm max}\) についての4つの式の内の任意の3つを使用して、3つの未知パラメータ \(S_{\rm M}\)、\(R_{\rm M}\)、\(K_{\rm M} \) を算出することができます。
性能指数 \( Z \) の算出
式 (3) を式 (7) に代入して、
\[ Z=\frac{2\Delta T_{\rm max}}{(T_h-\Delta T_{\rm max})^2}=\frac{S_M^2}{R_M K_M} \tag{10} \]
\(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法 I
式 (6)、式 (7)(式 (10))、式 (8) を使用して以下のようパラメータが求められます。
\[ S_M=\frac{V_{\rm max}}{T_h} \tag{11} \]
\[ R_M=\frac{(T_h-\Delta T_{\rm max})V_{\rm max}}{T_h I_{\rm max}} \tag{12} \]
\[ K_M=\frac{(T_h-\Delta T_{\rm max})V_{\rm max}I_{\rm max}}{2T_h \Delta T_{\rm max}} \tag{13} \]
\(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法 II
式 (6)、式 (7)(式 (10))、式 (9) を使用して以下のようパラメータが求められます。
\[ S_M=2\frac{Q_{c\rm max}}{I_{\rm max}}\frac{1}{T_h+\Delta T_{\rm max}} \tag{14} \]
\[ R_M=\frac{S_M^2}{K_M Z} \tag{15} \]
\[ K_M=\frac{T_h-\Delta T_{\rm max}}{T_h+\Delta T_{\rm max}}\frac{Q_{c\rm max}}{\Delta T_{\rm max}} \tag{16} \]
2つの \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) の算出方法の違いについて
上記2つ手法では、\(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) を定数と仮定しており、両者による計算値は理想的には同一になります。しかし実際はこれらのパラメータには少なからず温度依存性があるため、両手法によるパラメータの計算値は必ずしも一致しません。動作温度範囲が広く温度依存性が無視できない場合は、別途それを考慮したモデリングの検討が必要です。
応用:\( \rm COP\), \(R_{\rm heatsink} \) の算出
上記の方法で \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) を算出した後に、動作条件 \( I, T_h, T_c, T_a \) を入力することで、動作パラメータ \( Q_c, V, Q_p, {\rm COP}, R_{\rm heatsink} \) を式 (1)、式 (2) および以下の式を使用して見積もることができます。
\[ Q_p=VI \tag{17} \]
\[ {\rm COP}=\frac{Q_c}{Q_p} \tag{18} \]
\[ R_{\rm heatsink}=\frac{T_h-T_a}{Q_c+Q_p} \tag{19} \]
TEC デバイスパラメータ算出 Excel シートのダウンロード
上記の方法 I および方法 II によるTECデバイスパラメータおよび \( \rm COP\), \(R_{\rm heatsink} \) の算出を行う Excel シートは以下からダウンロードしてください。
TEC デバイスパラメータ算出 Excel シートの説明
- C3-C7セル:TECデバイスの \( I_{\rm max}, \Delta T_{\rm max}, V_{\rm max}, Q_{c \rm max}, T_h\) を入力します。
- C10セル:性能指数 \(\ Z \)が算出されます。
- C13-C15セル:方法 I による \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) が算出されます。
- C20-C22セル:方法 II による \(S_{\rm M}, R_{\rm M}, K_{\rm M}\) が算出されます。
- C27-C30セル:動作条件 \( I, T_h, T_c, T_a \) を入力します。
- C37-C41セル:上記方法 I で求めたパラメータと上記動作条件を用いて動作パラメータ \( Q_c, V, Q_p, {\rm COP}, R_{\rm heatsink} \) が算出されます。

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