Timoshenko のバイメタルの変形に関する式の導出をまとめました。また本理論に基づいて膜と基板の線膨張係数差による界面のミスフィット歪みによる材料中の歪み・応力・反りを計算するエクセルシートを作成しました。
Timoshenko のバイメタルの式
1. 曲率半径に対して膜と基板を合わせた厚みが十分小さい、2. 膜と基板の図心に働く軸力のつり合い、3. 膜と基板の界面でのモーメントのつり合い、4. 膜と基板の界面の歪みの連続条件、の4つの条件から導かれます。以下、順に説明します。
ミスフィット歪み(Misfit Strain)
拘束の無い状態で寸法差がある膜と基板を接合する場合、界面に歪み \(\varepsilon\) の不整合 \(\Delta \varepsilon\)(ミスフィット歪み)が発生します。ここでは以下のように定義します。
\[ \varepsilon_f-\varepsilon_s \equiv \Delta \varepsilon\tag{1}\]
添え字 \(f\) と \(s\) はそれぞれ膜と基板を表します。
\(\Delta \varepsilon\) の発生要因としては、2つの材料の線膨張係数差による熱歪みの差 \(\Delta \alpha \Delta T\)、半導体材料の成膜時の2つの材料の格子不整合などによる真性歪み、など、が考えられます。平衡状態では、このミスフィット歪みにより誘起される2つの材料中の応力分布による軸力と曲げモーメントがつり合う必要があります。

歪み分布
初等梁理論 に基づく式より、膜と基板の界面にミスフィット歪みがある場合、膜と基板の図心に働く軸力 \(N\) と曲げモーメント \(M\) を用いて内部の歪み分布は以下のように表せます。
\[ \varepsilon_f=\frac{N}{E_f t_f}+\frac{M_f}{E_f I_f} z\,,\hspace{20pt}
\varepsilon_s=-\frac{N}{E_s t_s}+\frac{M_s}{E_s I_s} z \tag{2}\]
ここで、\(E\) は弾性係数、\(I\) は断面2次モーメント、 \(z\) は各材料の図心から鉛直下向きの座標で、膜と基板に働く軸力がつり合うことを用いています。また、\(M\) と曲率 \(\kappa\) には \(M=EI\kappa\) の関係があるので以下のようになります。
\[ \varepsilon_f=\frac{N}{E_f t_f}+\kappa z\,,\hspace{20pt}
\varepsilon_s=-\frac{N}{E_s t_s}+\kappa z \tag{3}\]
ここで、膜と基板を合わせた厚みが曲率半径 \(\rho\,(=1/\kappa)\) よりも十分小さく、両者の曲率がともに等しいと仮定しています。
モーメントのつり合い
(膜ー基板)界面回りのモーメントのつり合いは、各材料の図心に働く軸力とモーメントを用いて以下のようになります。
\[\frac{N(t_f+t_s)}{2}=M_f+M_s \tag{4}\]
\(M=EI\kappa\) の関係を用いると、
\[\frac{N(t_f+t_s)}{2}=\kappa (E_f I_f+E_s I_s) \tag{5}\]
断面2次モーメントは奥行長さ1の長方形断面を仮定すると次式で与えられます。
\[I_f=\frac{t_f^3}{12}\,,\hspace{20pt}I_s=\frac{t_s^3}{12} \tag{6}\]
歪みの連続条件
(膜ー基板)界面での歪みの連続条件は、式 (1) と式 (3) を用いると以下のようになります。
\[\frac{N}{E_f t_f}+\kappa\frac{t_f}{2}+\frac{N}{E_s t_s}+\kappa\frac{t_s}{2}=\Delta \varepsilon \tag{7}\]
曲率と軸力
式 (5) と式 (7) を用いて未知数 \(\kappa\) と \(N\) を求めます。式 (5) より、
\[N=\frac{2\kappa (E_f I_f+E_s I_s)}{t_f+t_s} \tag{8}\]
これを式 (7) に代入すると、
\[ \frac{2\kappa (E_f I_f+E_s I_s)}{t_f+t_s} \left(\frac{1}{E_f t_f}+\frac{1}{E_s t_s}\right)+\kappa\frac{t_f+t_s}{2}=\Delta \varepsilon \]
\(\kappa\) について解くと、
\[ \kappa=\frac{\Delta \varepsilon}{\cfrac{2 (E_f I_f+E_s I_s)}{t_f+t_s} \left(\cfrac{1}{E_f t_f}+\cfrac{1}{E_s t_s}\right)+\cfrac{t_f+t_s}{2}} \tag{9}\]
これに式 (6) を代入して整理すると、
\[ \kappa=\frac{6E_f E_s t_f t_s (t_f + t_s)}{E_f^2t_f^4 + 4E_f E_s t_f^3 t_s + 6E_f E_s t_f^2 t_s^2 + 4E_f E_s t_f t_s^3 + E_s^2t_s^4 }\Delta \varepsilon \tag{10}\]
また、これを式 (8) を代入して整理すると、
\[N=\frac{E_f E_s t_f t_s (E_f t_f^3+E_s t_s^3)}{E_f^2t_f^4 + 4E_f E_s t_f^3 t_s + 6E_f E_s t_f^2 t_s^2 + 4E_f E_s t_f t_s^3 + E_s^2t_s^4 }\Delta \varepsilon \tag{11}\]
式 (10) と式 (11) を式 (3) に代入することで、膜と基板の歪み分布 \(\varepsilon_f\) と \(\varepsilon_s\) を求めることができます。膜と基板の応力分布は \(\sigma_f=E_f\varepsilon_f\) 、\(\sigma_s=E_s\varepsilon_s\) より求めることができます。
以上の導出では、弾性係数として細長い直方体梁のような1軸応力状態を想定しヤング率 \(E_f\)、\(E_s\) を使用していました。一方、基板上の膜のような2軸応力状態の場合は、ポアソン比 \(\nu\) を用いて各々の弾性係数を \(E_f/(1-\nu_f)\)、\(E_s/(1-\nu_s)\) と修正するだけで現象をよく説明できます(厳密には式 (9) は比 \(E_f/E_s\) にのみ依存する形となり、膜と基板のポアソン比が同じ場合にその影響が打ち消されます)。
反り量
曲率半径 \(\rho\,(=1/\kappa)\) が分かれば基板の反り量を求めることができます。梁の長さを \(L\) 、反り量を \(\delta\,(\ll \rho)\) とすると幾何学的関係より次式となります。
\[\delta=\frac{L^2}{8\rho} \tag{12}\]
Excel シートのダウンロード
Excel シートの説明
基板上の膜のような2軸応力状態において、2つの材料の線膨張係数差によるミスフィット歪み \(\Delta \alpha \Delta T\) による材料中の歪み・応力分布・反り量を Timoshenko の式で計算するエクセルシートです。
シート “Timoshenko Bi-Metal”
- C4-C5 セル:ドロップダウンリストから膜と基板材料料を選択します
- G4-G5 セル:膜と基板の厚さ μm 単位で入力します
- D8 セル:温度差\(\Delta T\) を入力します
- D13 セル:基板寸法を入力します
- C17-E22 セル:膜と基板の上面・図心・下面の歪み・応力の値が出力されます
- D14 セル:反り量が出力されます

上の例では \( \alpha_f > \alpha_s\) で正の温度荷重により、\( \Delta \varepsilon = (\alpha_s-\alpha_f) \Delta T< 0\) となり、膜中に圧縮応力の分布ができていることが分かります。
シート “Material”
シート “Timoshenko Bi-Metal” 中の C4-C5 セルのドロップダウンリストで選択する材料のヤング率、ポアソン比、線膨張係数、のリストです。必要に応じて追加・修正してください。

参考
「現代工業力学の父」Timoshenko の今からちょうど 100 年前、1925 年の論文です。
- S. Timoshenko, Analysis of Bi-Metal Thermostats, J. Opt. Soc. Am. 11, 233 1925.
- Stephen Timoshenko – Wikipedia
以下はケンブリッジ大学の Department of Materials Science & Metallurgy のオンライン学習サイトです。こちらも参考にさせていただきました。
バイメタルとバイモルフについての wiki です。
コメント