真空工学で使われる圧力と流量の単位

真空工学
Hannes Grobe, CC BY 3.0 , via Wikimedia Commons

真空工学や半導体プロセスで使われる圧力と流量の単位についてのまとめてみました。また圧力と流量の単位換算を行う Excel シート を作成しました。

圧力

Pa

1 平方メートルあたり 1 N が定義ですが、単位変換すると単位体積あたりのエネルギーという解釈もできます。

\[ 1 \,{\rm Pa}=1 \,{\rm N/m^2}=1 \,{\rm Nm/m^3}=1 \,{\rm J/m^3}\]

bar, mbar

個人的にはほとんど使用したことがないのですが、欧州では mbar が多く使われているそうです。

\[1 \,{\rm bar} = 10^5\,{\rm Pa}\]

\[1 \,{\rm mbar} = 100\,{\rm Pa}=1\,{\rm hPa}\]

かつて気象分野では mbar が使われていましたが、SI 単位でかつ数値がそのまま使えることから hPa に置き換わりました。

atm

標準大気圧 101325 Pa(平均海水面における平均気圧にもとづく)として定義されています。

\[1 \,{\rm atm} = 101325\,{\rm Pa}\]

Torr, mTorr

大気圧 1 atm と 760 mm の高さの水銀柱の重さがつり合うことから以下のように定義されます。

\[760 \,{\rm Torr}=1\,{\rm atm}= 101325 \,{\rm Pa} \]

つまり、

\[1 \,{\rm Torr}= \frac{1}{760}\,{\rm atm} = \frac{101325}{760}\,{\rm Pa} \sim 133 \,{\rm Pa} \]

\[1 \,{\rm mTorr} \sim 0.133 \,{\rm Pa} \]

Torr は Pa とともに半導体プロセスで使用されます。ちなみに、日本の計量法では血圧の測定で使用されている 1 mmHg(水銀柱ミリメートル)と 1 Torr は等しいと定義されています。血圧の正常値とされる「120/80 mmHg=120/80 Torr」は「16/11 kPa=160/110 hPa」に相当することになります。

流量

気体のような圧縮性流体は密度が圧力と温度により変化するため基本的に質量流量を使用します。

sccm

「sccm=standard cubic centimeters per minute」は体積流量 1 cc/min を標準状態の圧力 \(p_0\), 温度 \(T_0\) での値に換算したもので実質的には質量流量を表しています。通常は \(p_0=101325\,\rm Pa\), \(T_0=0 \,\rm ^\circ C\) とされ、半導体プロセスの材料ガスの流量単位として使用されています。sccm 単位で測った流量を \(Q_{\rm sccm}\) とすると、標準状態における体積流量 \(Q_0\,[\rm V/m^3]\) は以下のようになります。

\[Q_0=\frac{10^{-6}}{60}Q_{\rm sccm}\]

ボイル=シャルルの法則より、実際の \(p\), \(T\) における体積流量 \(Q\) は以下のように圧力に反比例、温度に比例することになります。

\[Q=Q_0\frac{p_0}{p}\frac{T}{T_0}\propto \frac{T}{p}\]

これに密度 \(\rho \,[\rm kg/m^3]\) をかけると質量流量 \(G \,[\rm kg/s]\) がもとまります。

\[G=\rho Q=\rho Q_0\frac{p_0}{p}\frac{T}{T_0}\]

ところで、\(p\), \(T\) において理想気体の状態方程式は以下のように表せます。

\[p=nkT=nm\frac{kN_A}{mN_A}T=\rho\frac{R}{M}T \]

結局、\(Q_{\rm sccm}\) から質量流量 \(G\) への変換は次式のようになります。

\begin{eqnarray}
G&=&\frac{p_0M}{R T_0}Q_0=\rho_0 Q_0\\
&=&\frac{101325\times 10^{-6}}{8.314 \times 273.15 \times 60}M Q_{\rm sccm}\\[8pt]
&=&7.44\times 10^{-10}M Q_{\rm sccm}
\end{eqnarray}

ここで、分子量 \(M\) の単位は kg/mol であることに注意してください。

Pa・m3/s (pV 値)

圧力 p と体積 V の積を表す量で、こちらも実質的に質量流量になります。pV 値とも呼ばれ真空システムの設計に使用されます。理想気体の状態方程式は以下のように表せます。

\[pV=NkT=N m\frac{ k N_A}{mN_A}T=G\frac{R}{M}T\]

これより、

\[G=Nm=\frac{M}{RT}pV\]

となり、温度一定を仮定すると pV 値は質量流量 G に換算できることが分かります。
なぜ「Pa・m3/s」 が流量の単位になるのだろう? と疑問に思う方もいるかもしれませんが、単位変換すると「Pa・m3/s=J/s」となり、エネルギーの流れともみなすことができます。実際に気体分子運動論では、pV は分子の並進運動エネルギーの総和に関連付けられます。

mbar・l/s

上述の pV 値を mbar と ℓ(リットル) で換算したものです。リーク量の単位として伝統的に使われてきたようです。

\[1\, {\rm mbar\cdot l/s}=100\times10^{-3}\, {\rm Pa \cdot m^3/s}=0.1\, {\rm Pa \cdot m^3/s}\]

圧力・流量 単位換算 Excel シートのダウンロード

Excel シートの説明

  • C3 セル:ボルツマン定数
  • C4 セル:気体定数
  • C5 セル:標準圧力(圧力と流量の単位変換に使用)
  • C6 セル:標準温度(流量の単位変換に使用)
  • C8 セル:分子量(質量流量の計算に使用)
  • B12-G17 セル:黄色のセルに数値を入力してください。圧力の単位(Pa, mbar, mTorr, Torr, atom)を相互に変換します。
  • B20-G25 セル:黄色のセルに数値を入力してください。流量の単位(sccm, Pa m3/s, mbar l/s, molecule/s, kg/s)を相互に変換します。

参考

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